2022年 09月 15日
【原発賠償京都訴訟】第15回期日報告集会 田辺弁護団事務局長報告「最高裁判決をどうのりこえるか」 |
●最高裁判決をどう乗り越えるか(田辺弁護士)
6月17日、最高裁が判決を出した。あれは事例判決なので、他の同様の裁判があれに従う必要はないというのが建前なんだけど、実際には同じような主張や立証活動をやっている裁判で最高裁と違う判決を下級審の裁判官が書けるかというと、すごくハードルが高いと思う。そこをどう乗り越えるかということだが、まず最高裁判決は全員一致ではなかった。3対1で、多数意見は国の責任を否定したが、三浦裁判官(検察官出身)の膨大な、しかも説得的な反対意見が付されている。
ポイントは2つあって、まず国の責任は国家賠償法に基づいて、公権力の行使に違法性があるかどうかで判断する。この違法性の中に予見可能性とか結果回避可能性とか、その他いろんな要素を含めて検討することになっている。多数意見も津波が来ることは予見できたという前提で書いている。ただ、ちゃんと判断を明記していない。結果を回避できたかどうかだけを判断している。地震本部の長期評価は過去400年に起きた津波地震を基に今後起こり得る津波地震を予測したものだが、過去400年には福島県沖で起きた記録はなかった。
でも、三陸沖から房総沖にかけての日本海溝沿いの海底の構造は同じだから、どこでも起こり得ると予測した。2008年に東電は東電設計に明治三陸沖地震が福島県沖で起こったら、どういう津波が来るかを計算させたところ、敷地の一部に敷地を超える津波が来るという結果を得た。多数意見は、その結果に基づいて防潮堤を造ったとしたら、敷地全部ではなく、津波が来るとされた箇所だけに防潮堤を造っただろうから浸水は防げなかったと結論づけた。しかし、実際に予測以上の津波が来ない保証はないし、大きさだけでなく、津波が到来する場所だってわからない。
ただ、敷地を超える津波が来ることは分かってる。そういう中で技術者だったら、敷地全体を守っておかないとだめだと考えるはずだ。
津波工学の今村文彦教授という人が裁判で証言したことがある。最初に東電設計の計算結果を示され、「こういう場合にどういう防潮堤を造るんですか?」と質問されて、考えるまでもなく北から南までざっと線を引いた。ところがあとになってその答えをひっくり返した。「突然訊かれたから、よく考えずに答えてしまった」と。
もう1つは、水密化の問題。そもそも防潮堤が必要なところに設置許可は出さない。建設当時はそんな巨大津波が来るとは誰も想定していなかった。だけど、途中で敷地が津波で浸水するかも知れないとわかった時にどうするか。防潮堤を越えて浸水した時を想定して重要な建物や機器の水密化(各種の防水工事)をする。ところが多数意見は、当時は水密化という考えはなかったと言っている。IAEA(国際原子力機関)が当時発行していた「セーフティガイド」をみると、まず防潮堤で水が入らないようにする、だけどそれだけではだめで、水が入ってきた時を想定して防水をしなければならないと書いてある。菅野裁判長は知らなかったのかもしれないが、事実と違うのでちゃんと反論したい。
他にもいくつかあって、1つはシビアアクシデント対策の問題。想定していない問題が起きても、大事故につながらないように対策をしておく。それが事故前には法制化されていなかった。日本ではアクシデント・マネージメントと呼ばれて検討されていて、国は導入しようと思っていたようだが、電力会社側が取り入れようとはしなかったという問題。
最後のとどめが貞観津波。長期評価はあくまで予測の問題だが、貞観津波は実際過去に到来している。実は、われわれも貞観津波はあまり取り上げて来なかった。というのも、どこの裁判所でも長期評価だけでそれなりの成果をあげてきた。
しかし、最高裁判決が長期評価をあんな変な取り上げ方をしたので、これまであまり主張して来なかった問題も整理して主張していきたい。
by shien_kyoto
| 2022-09-15 10:23
| 期日報告集会
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