2021年 12月 16日
第12回控訴審(大阪高裁)期日 1審原告側プレゼン要旨 |
●一審原告プレゼン要旨
◆高松高裁判決―責任論―の妥当性(森田基彦弁護士)
・高松高裁判決は、仙台高裁判決(生業訴訟)と東京高裁判決(千葉訴訟)を踏まえたもので、その責任論に関する判断枠組みは精緻化されており、本件の参考になる。
〈予見可能性について〉
・高松高裁は、津波の予見可能性について、「経済産業大臣において技術基準適合命令を発する要件が備わっていることを認識し、または認識し得たことが、国賠法1条1項の適用上違法となる要件である」と整理した。
その整理を前提に、判決は「想定津波の到来によって、全交流電源喪失、冷却機能の喪失という重大な損傷を受けるおそれがあることを認識し、または認識し得たにもかかわらず、技術基準適合命令を発しなかったことが、…許容限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められる場合には、国賠法1条1項の適用上違法となる」との判断枠組みを示した。
〈長期評価の信頼性について〉
・判決は、長期評価の見解について「学者個人としての論文等とは異なり、海溝型分科会を中心とした多数の専門家による検討を踏まえ、相当程度の科学的信頼性を獲得していると評価されている知見」と判断した。その上で、「規制機関である経済産業大臣は、長期評価の見解をも参照し、福島県沖についても、明治三陸地震を参考にした震源域を設定して津波のシミュレーションを行うなどし、想定津波が福島第一原発に及ぼす影響の有無や程度を調査、検討すべきだった」とし、そうすれば同原発が「技術基準に適合していないと判断できる状況にあった」と国の予見可能性を認定した。
〈結果回避可能性につて〉
・判決は、2008年の東電の試算に依拠した対策が実際に発生した津波への対策として有効であったかどうかを検討した。その結果、判決は「直ちに、本件津波による原発の主要建屋への浸水やそれによる重大事故を防ぐことができたかどうか判然としない」とし、また、実際には国・東電によって何らの措置も講じられていないため、「実証的な検証をすることは困難である」とした。
しかし高松高裁判決は、実証できないから「判断不能」とはしなかった。ここが秀逸な点だ。すなわち、2008年の試算による想定津波を前提に、「防潮堤の設置に加えて、主要建屋または重要機器室の水密化の措置を採っていた場合、本件津波の到来による浸水を完全に防ぐことはできなかった可能性はある」が、「浸水の規模を相当程度抑制でき、本件事故のような全電源喪失の事態にまで至らなかった蓋然性が高い」と、結果回避可能性を肯定した。高松高裁が「蓋然性」の有無を基準とする判断を行なったことは非常に合理的だ。
〈防潮堤等の有効性〉
さらに高松高裁は、原発敷地の前面を全体的に覆うように地上10m防潮堤を設置したと過程した場合に、遡上する津波の侵入をおおむね阻止することができ、浸水は50㎝以下であるとする今村教授のシミュレーション結果をもとに、防潮堤による結果回避措置を肯定した。
また、タービン建屋や重要機器室の水密化により「本件津波の影響は相当程度軽減され、…全交流電源喪失の事態に至るまでのことはなかった蓋然性が高い」とした。
以上のような高松高裁判決の判断基準と事実認定は本件にも妥当する。
◆国際人権法に関する主張のまとめ(高木野衣弁護士)
〈グローバー報告〉
2013年5月、いわゆるグローバー報告が公表された。そこには、「低線量の放射線でも健康に悪影響を与える可能性があるため、被ばく線量が可能な限りに低減されて年間1m㏜未満になった場合にのみ、避難者は帰還を推奨されるべきである」と明記されていた。また、年1m㏜を超える被ばくを強いられることは、健康に対する権利への侵害であると指摘した。
日本政府の年20m㏜基準はICRP勧告を裏付けとしているが、ICRP勧告が基礎とする最適化と正当化の原則(リスクベネフィット論)は、「個人の権利よりも集団の利益を優先するため、健康に対する権利の枠組みには適合しない」と指摘している。
グローバー勧告を踏まえ、社会権規約委員会は第3回日本政府報告書審査・総括所見において、グローバー報告を履行するよう勧告した。
〈国際社会からの懸念〉
2018年3月の国連人権理事会でドイルからの日本政府に対する「許容放射線量を年間1m㏜以下に戻し、避難者および住民への支援を継続することによって、福島地域に住んでいる人びと、特に妊婦および児童の最高水準の心身の健康に対する権利を尊重すること」という勧告が正式に採択され、日本政府はフォローアップする(「約束どおりできているか確認する」くらいの意味か)ことに同意した。
2018年9月に、有害廃棄物特別報告者のトゥンジャク氏と国内避難民特別報告者のダマリ―氏は連名で情報提供の要請文書を公表したが、そこでは「福島に設定された年間20m㏜の暴露水準という高いしきい値は、放射線防護の国際基準に沿っていないとの懸念が表明されていたことを指摘したい」と述べられていた。
以上のことから、国際社会が、年1m㏜を超えるような被ばくを住民に強いる行為は、国史人権法に根拠を置く健康に対する権利の侵害に当たると考えていることが分かる。
〈国際人権を論じる意義〉
原判決は、健康影響の有無ではなく、避難の相当性は社会通念に照らし、一般人からみて避難がやむを得ないものだったと言える場合には肯定されるとしている。しかし、社会通念の判断にあたって、ICRPが公衆被ばくの線量限度を年間1m㏜としたこと、それを日本が放射線審議会における審議を経て国内法に取り入れたことの意味合いが全く欠落している。国際人権法における健康に対する権利を尊重し、保護し、充足する必要がある。
今回の原発事故による影響は、伝統的な不法行為法が想定してきた被害とは様相が異なる。「健康に対する権利への侵害」という考え方は、従来の伝統的な不法行為法では見られなかったが、「原発事故による避難」という「新しい社会現象」に対処する上では有効だ。
◆低線量被ばくの危険性(鈴木順子弁護士)
東電は、同種の別の訴訟で「年間積算線量100m㏜以下の被ばく線量であれば健康への影響は認められない、LNTモデルに依拠しても年間積算線量20m㏜以下の被ばく線量の地域に居住し続けたとしても発がんリスクは無視し得る」などと主張している。
本行忠志教授(大阪大学大学院)の意見書・補充意見書などに基づき、低線量被ばくの危険性を示す科学的知見が今も集積され続けていることを述べる。
本行意見書では、CT検査で発がんリスクの上昇がみられる旨を報告している調査もあることが指摘されている。また、補充意見書では、1990年から2020年に公表された3つの研究報告において、低線量の被ばくであっても健康影響が生じ得ることを示しており、低線量被ばくの危険性を示す科学的知見は現在もなお集積され続けていることは明白だ。
さらに補充意見書は、放射線感受性に関して個人差がおおきいことを指摘している。
ICRPは、「遺伝的素因によって放射線リスクの有意な上昇が懸念されるのは、集団中の1%かそれ未満にすぎないので、遺伝的素因に関する不確かさを考慮しても、現行のICRP勧告を見直す必要はない」と述べている。
これは、100万人が被ばくすれば1万人はICRPの言う「しきい値」よりも少ない被ばく量で「確定的影響」とされる健康影響を受けるリスクが生じること、すなわち、国や東電が危険性が少ないと述べる100m㏜未満の「低線量被ばく」においても確定的影響による組織反応のリスクが生じることを意味する。
低線量被ばくの危険性を示す調査結果や科学的知見が集積しているという事実と、仮に「しきい値」が100m㏜であるとしても、自分が「100人の中の1人」に該当し、「しきい値」以下の低線量被ばくであっても確定的影響である組織反応を生じさせるかもしれない、しかも自分が100人の中の1人であるのかどうかもわからないという事実は、極めて重要である。
そもそも避難の相当性を判断する際に、低線量被ばくによる健康影響について科学的に立証することまで求められるものではない。しかし、低線量被ばくの危険性を示す科学的知見が現在もなお集積され続けていることは、原告らの避難の相当性を強く基礎づけるものであるといえる。
by shien_kyoto
| 2021-12-16 23:59
| 控訴審期日
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