2021年 03月 18日
第9回控訴審(大阪高裁)期日での原告側プレゼンのまとめです。 |
原告側プレゼンの要約を事務局の責任でまとめました。長文ですが、ご容赦ください。
◆下山意見書に基づく主張(森田浩輔弁護士)
・本書面では、一橋大学大学院の下山憲治教授(行政法)の意見書をもとに、原子力安全規制においては「事前警戒・予防」の観点から最新の科学
・技術水準に即応した規制が求められ、典型的な警察規制のように「切迫性」は用件とされないことなどを主張する。
・民法では損害賠償責任の要件として、①故意・過失②権利侵害③損害発生の予見可能性④結果回避可能性等が要求されるが、本件では電気事業法40条(技術基準適合命令)に基づく経産大臣の規制権限の発動要件が問題になる。その発動要件とは、「事業用電気工作物が…技術基準に適合していないと認めるとき」であり、福島第一原発が「想定される自然現象(ここでは津波)により原炉の安全性を損なうおそれがある場合」に当たる。
・本件の最大の争点は、長期評価の津波地震が「原子炉の安全性を損なうおそれのある」津波にあたるか否かである。下山意見書は、国が予見可能であったとすることは福島第一原発が技術基準に適合しておらず、適合命令を発する要件が充足されていたことを意味するとし、千葉地裁の2判決、名古屋地裁判決、山形判決の判断手法は適切ではないと批判する。
・従来の最高裁判例は「規制権限の不行使は、…その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるとき」は国賠法の違法となるというものだが、名古屋判決は、これに次の2つ―①公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違反すること②当該公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と当該行為をしたと認めうるような事情があること―の要件を付加し、国賠法の違法には2要件が必要とした。しかし、名古屋地裁が引用した最高裁判決は本件とは事実関係等が全く異なるものであり、規制権限不行使が争われた最高裁判決においては2要件には言及されておらず、不必要な判断定式である。
・また下山意見書は、原発は万が一の事故を防止するために最新の科学・技術水準に即応することが求められており、電気事業法の「技術基準適合」も事前警戒・予防を基本に解釈すべきである。つまり、警察規制は「危険がないのに誤って規制する」ことを避けるべきだが、原発は「危険があるのに誤って規制しない」ことを避ける必要があり、事前警戒・予防の考え方を徹底する必要がある。
・そのため、確立した科学的知見に限定せず、「生成途上の科学的知見」を踏まえて「抽象的危険の段階」でも規制措置を講じるべきで、危険の程度についても「危険の切迫性」を求めることは制度の趣旨に反し、「合理的疑い」がある段階で先取り的に措置を講じる必要がある。
・名古屋判決は、「抽象的な危険」に対しても「適時にかつ適切に」行使されなければならないとしながら、「予見可能性の程度」は高度なものではなく、敷地高を超える津波の到来は「切迫したものではなかった」ことを理由に、津波対策より地震対策を優先する判断は不合理とはいえないとした。これでは、事前警戒・予防の考え方に立つ原子力安全規制の趣旨・目的を達成できないし、住民の生命・身体の保護より東電の経済的利益を優先するものだ。
・名古屋判決は、国の広範な裁量などを理由に、技術基準適合命令を発しなかったことが著しく合理性を欠くとは認められないとしたが、下山意見書は、適合命令発動の要件が満たされる場合に権限不行使や権限行使の著しい遅延を許容するような裁量は原子力法制の趣旨からみて認められないとした。
・一方、どこまで具体的に防護措置を特定して命令を発する必要があるかについては、事前警戒・予防の特徴から可能な範囲で行なえばよく、被害発生を防止ないし低減するために有効と考えられる水密化等の措置を例示すれば十分と例示している。また、原告サイドが結果回避手段をある程度特定している場合には、被告サイドにその手段では回避不能であることを証明させ、それができない場合は結果回避可能と推認すべきと指摘している。こうした下山意見書の考え方は十分参考にされるべきである。
◆内部被ばくの危険性(高木野衣弁護士)
・本書面では、これまでに確認されている不溶性放射性物質の拡散状況とその危険性について説明し、ICRP(国際放射線防護委員会)が想定する内部被ばくリスクは過少評価であり、内部被ばくリスクは外部被ばくリスクとは独立して評価しなければならないこと、被告国が内部被ばくを軽視していることを批判する。
・事故後、各地で放出されたセシウム含有球状粒子(セシウムボール)が見つかっており、それが水に溶けない不溶性であり、イオン化せず土壌の鉱物粒子の表面に付着し、土壌や植物などを媒体に移動すること、中にはセシウムを含むケイ酸塩ガラス微粒子も見つかっており、放射能密度が非常に高いことなどが明らかになっている。
・不溶性の放射性微粒子は原発から230キロ離れた地域にまで拡散しており、原告らが事故前に居住していた地域にも拡散したものと考えられる。また、その放射性粒子は不溶性であるが故に、土壌や植物を媒介に環境中を移動し、長期間残存している可能性が高いといえる。
・再浮遊による二次汚染のリスクも指摘されている。広島大学放射線医科学研究所の大瀧らの研究で、土壌汚染濃度と空間線量率との間の相関関係は意外に低いことがわかった。帝京大学理工学部の飽本は、放射性降下物量は降水量が減少し季節風が強まる冬から春に増加し、逆に降下量が増加し季節風が弱まる夏から秋に減少することを明らかにした。放射性微粒子は、沈着と再浮遊を繰り返しながら原告らの元居住地の空間を循環し続けており、その吸引による被ばくのリスクは今なお存続している。
・そして、内部被ばくの怖いところは、強力な放射線を至近距離から細胞に照射する点にあるが、不溶性放射性微粒子が体内に入った場合、より長期に体内滞留し、不可逆的な影響が継続するという危険性がある。広島で被爆し53年後にがんと診断された者の切除組織からは放射線の飛跡が認められ、長崎で1945年に死亡した人の病理解剖肺の標本からは被爆後65年経った後でも残留放射能が検出され、多数のアルファ線の飛跡が認められた。放射線医学総合研究所の谷研究員らが事故直後の中央制御室で監視業務にあたり被ばく線量が高かった作業員の体内のセシウム量を測定した研究によると、ICRPの想定(800日で99・9%が排泄される)に反して1000日を超えてもセシウムは体内に残存していた。
・国が依拠するICRPは、イオン化した放射性物質が体全体を平均して被ばくさせ、半減期に従って体外に排出されることを想定しており、内部被ばく(とりわけ不溶性放射性微粒子による内部被ばく)を過小評価している。不溶性放射性微粒子は浮遊・沈着・再浮遊を繰り返して環境中に長期滞留するため、長期にわたって吸入の危険がある。いったん体内に取り込まれると局所的に被ばくさせるうえ、生物学的半減期を超えて体内にとどまり被ばくさせ続ける。このような特質は、空間線量に基づく外部被ばくの危険性とは独立して評価されなければならず、今なお避難せざるを得ないことを基礎づける一事情である。
◆東電の主張への反論(白土哲也弁護士)
・東電は前回提出した準備書面で、避難指示等対象区域外の住民にはそもそも「法律上保護される利益」に対する違法な侵害などなかったと言い放った。そして、地域住民に対して精神的損害と生活費増加費用等の合算として支払った金員(大人の場合12万円)について、自主的避難等対象者に生じる可能性がある精神的苦痛を最大限に評価したものであると主張した。すでに支払った一部賠償金についてまで支払う必要がなかったという主張はこれまでになかったものであり、「自白の撤回」として訴訟上許されない。
・本書面では、①避難の社会的相当性は国内に共通して適用される法規範を中心に評価すべきであること②避難元が避難を決断するに足りるだけの汚染状況にあったこと③現実は原発事故前の状況まで復興しているとは言い得ないこと④すべての一審原告に避難の相当性が認められるべきことを明らかにする。
・国内法の規制には、公衆被ばく限度(1ミリシーベルト/年)、放射線管理区域(4万ベクレル/㎡)、クリアランスレベル(6500ベクレル/㎡)などがあり、いずれかの規制値を超える場合は、「容認不可」であり、避難には相当性が認められる。
・土壌汚染は、空間線量(外部被ばく)の原因となるだけでなく、土ぼこりを呼吸したり、食物を通じて摂取したり、また子どもが遊びの中で体内に取り込んだりして内部被ばくの原因になる。だから、人の生命・身体への悪影響(被ばくリスク)を考えるに際しては、空間線量だけでなく、土壌の放射性物質の量の面からも規制されている。また公衆被ばく限度の評価は、環境省「放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料」が「対外から1ミリシーベルト、体内から1ミリシーベルトを受けたら、合わせて2ミリシーベルトの放射線を受けた、ということができます」と述べるように、人体が受ける放射線の影響は外部被ばくだけと内部被ばくを合わせて評価しなければならない。原判決が、空間線量とは別に土壌汚染を考慮していないのは重大な誤りである。
・多くの一審原告らの避難元の土壌汚染はいずれも放射線管理区域あるいはクリアランスレベルを超えており(容認不可レベルであり)、避難の相当性は明らかだ。
・自主的避難等対象区域外からの避難原告のうち、福島県会津美里町・金山町、県北、北茨城市・つくば市、千葉県柏市・松戸市、栃木県大田原市はいずれも20ミリシーベルト/年を下回るが1ミリシーベルト/年を上回り、市町村による除染実施区域に指定された地域であり、避難の相当性を認めるべきである。
・これ以外に食品の出荷制限もあり、それは北は青森県、西は静岡県や長野県に及んでいる。海産物の出荷制限は昨年解除されたばかりだが、今年2月に福島県沖で獲れたクロソイから基準値を超える放射性物質が検出された。
・一審原告の多くが子育て世代であり、子どもの成育環境を守ることを避難の大きな動機としている。東電は、前回期日にいて学校の再開をさも平静を取り戻したかの如く示したが、内閣官房参与だった小佐古氏は、国が20ミリシーベルト/年を上限に校庭の利用を認めたことに抗議して辞職した際、「20ミリs-ベルト/年の被ばくは、原発の放射線業務従事者でも極めて少ない。この数値を乳児、幼児、小学生に求めるのは受け入れがたい」と訴えた。
・本件事故とそれに起因する生活基盤の破壊は、今なお継続している。
by shien_kyoto
| 2021-03-18 23:59
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