2021年 01月 31日
【原発賠償京都訴訟】第8回控訴審(大阪高裁)期日 原告側プレゼンについて |
みなさま
支援する会事務局の上野です。
先に14日の控訴審第8回期日の状況とおおまかな流れについては報告したところですが、法廷での原告側のプレゼンについて報告します。原告側のプレゼンは3本でした。以下、その要約です。長文、重複、ご容赦ください。
*原告側プレゼン内容については弁護団による説明映像を支援する会のウェブサイトに掲載しているので、関心のある方はご覧ください。(事務局)
支援する会ウェブサイト 裁判資料をご覧ください。↓
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◆中間指針は自外の実態を反映していない(井関弁護士)
原発損害賠償紛争審査会(原賠審)は、原子力損害賠償の紛争について和解仲裁、及び自主的解決のための指針策定を目的に2011年4月11日に設置され、8月5日に中間指針(区域内避難者の賠償基準)を、12月6日には中間指針追補(「自主避難者」の賠償基準)を策定した。
原賠審は、策定に向けて専門委員として各分野から74名を任命したが、被災者・被害者の精神的被害に関する専門家は1人も任命されなかった。その結果、精神的被害の調査・実態把握はされることなく、交通事故の自賠責基準を参考に慰謝料基準を算定したのである。
区域内避難者の場合、第1期(最初の6か月)は月額10万円、第2期(次の6か月)は月額5万円、第3期(それ以降)は月額10万円と決められたが、第1期は「避難による不便の慰謝料」、第2期は「避難に慣れて不便が軽度になった」、第3期は「避難継続による将来に対する不安を加味した」と説明している。
しかし、辻内意見書、成(ソン)意見書、竹沢他意見書によれば、原発事故被災者・避難者のストレス度は、避難による不便や将来への不安だけでなく、被ばくに対する不安、失業や経済的困窮、差別やいじめ、ふるさと喪失、相談できるつながりの喪失なども原因となっており、中間指針はこれらの要因が反映されていない。
「自主避難者」については、精神的被害実態だけでなく、経済的財産的被害実態についても調査も把握もされないまま、賠償基準が策定された。その慰謝料は妊婦・子ども以外の大人は事故発生当初について8万円とされ、これは「正しい情報が行き渡っていない間の被ばくの不安・恐怖」に対する慰謝料と説明されている。
しかし、上記意見書によれば、区域外避難者のストレス度は、区域内避難者のそれと遜色なく、ストレスの原因も区域内避難者と基本的に異なるところはない。
以上のとおり、中間指針は被害実態を踏まえておらず、特に区域外避難者については被害実態と著しく乖離した低い水準となっている。中間指針に拠って慰謝料水準を考えるのではなく、被害実態を踏まえた慰謝料認定を強く求めたい。
◆因果関係・原判決の誤りについて(高木野衣弁護士)
原(一審)判決は、避難の相当性について、低線量被ばくの場合であっても、避難者が放射線に対する恐怖や不安を抱き、その影響を避けるために避難し、それが一般人からみてもやむを得ないものであって社会通念上相当といえる場合は、因果関係が認められると述べている。
社会通念に基づく規範的判断の根拠になるものはいろいろあるが、最も重要な要素は法規範である国内法である。
わが国では原子炉等規制法や放射線障害防止法などで年間1ミリシーベルトを超える被ばくから公衆を徹底的に保護している。したがって、年間1ミリシーベルトを超える被ばくを避けるために避難することは相当であるというべきである。
しかし、原判決は年間1ミリシーベルトを超える空間線量であった地域からの避難および避難継続の全てが相当であるとは言えないとした。その理由として、①低線量被ばくに関する科学的知見が未解明であって、LNT(しきい値なし直線)モデルは科学的に実証されておらず、1ミリシーベルトの被ばくによる健康影響が明らかでない、②ICRP(国際放射線防護委員会)勧告は、放射線防護という観点においては安全側に立って考える必要があることから、科学的にもっともらしいとされるLNTモデルを採用したに過ぎない、を挙げている。
原判決は、科学を「疫学的に低線量被ばくの健康影響が観察されること」と取り違え、LNTモデル自体が科学的な判断に基づいて認められていることを見落としている。
人体の各細胞にはその細胞の設計図ともいうべきDNAが収められている。DNAは2本の鎖から成っているが、放射線が1本でも細胞を貫けば、その鎖を切断する。1本の鎖の切断だけなら大半のDNAは元通り修復されるが、2本の鎖とも切断されると修復エラーが生じ、細胞に突然変異や染色体異常、細胞死が生じる。こうした細胞損傷のメカニズムからして、放射線リスクにしきい値がないことは正しいと言われている。
このことは動物実験などからも裏付けられており、ICRP勧告は、放射線による遺伝子および染色体の突然変異の誘発について「関連データの大半は、線量と影響の間の単純な関係に適合する」「(データは)数十ミリグレイの線量まで直線性を示唆しており、数ミリグレイまでの低い線量域でこの単純な比例関係から外れることを示唆するよい理由はない」などと説明している。
原爆被爆者の死亡率に関する研究(LSS)の13報(2003年公表)では「固形がんの過剰相対リスクは、0―150ミリシーベルトの線量範囲においても線量に関して線形であるようだ」とされていたが、14報(2012年公表)では「定型的な線量閾値解析では閾値(いきち)は示されず、ゼロ線量が最良の閾値推定値であった」と断定するに至っている。
被告側の証人であった佐々木氏(元ICRP委員)も、「LNTをサポートするような研究成果というのは、実はいろいろある」とし、「ICRPがLNTモデルを放射線防護の体系に採用するということは、科学的にもっともらしい」「それなりの正当性がある」と認めている。
ICRPは、1990年勧告において「年実効線量限度1ミリシーベルト」を勧告した。その意味をICRPは、「これを超えれば、個人に対する影響は容認不可と広くみなされるようなレベルの線量」と述べており、ここに勧告の核心がある。
日本でも、ICRPが勧告した公衆被ばく線量限度を国内法に導入したのだから、本件事故発生当時において「年間1ミリシーベルトを超えれば個人に対する影響は容認不可」とされる社会的合意ないし社会規範があったといえる。被災地の住民だけが、容認不可とされる被ばくを強いられるべき理由はどこにもない。社会的に許容できない被ばくを回避する行動(避難)は社会的にみて相当ないし合理的な行為である。
◆健康に対する権利侵害を考慮すべき(清洲真理弁護士)
放射線防護法制によって確立されている健康に対する権利への侵害があり、社会権規約(以下、A規約)に基づく健康に対する権利への侵害が考慮されるべきである。
健康に対する権利は社会権規約(以下、A規約)12条、子どもの権利条約24条等により、国際人権に基礎を置くものであり、日本は締約国として無差別・平等の取り扱いをすべき義務および後退的措置をとってはならない義務を負っている。
公衆被ばく線量限度は、炉規法、電気事業法、放射性同位元素等規制法(RI法)によって厳格に担保されている。これら放射線防護法制は、健康に対する権利の基準となる。
炉規法、RI法は「原子力基本法の精神にのっとる」と明記しているが、原子力基本法は「確立された国際的な基準を踏まえ、国民の生命、健康および財産の保護、環境の保全ならびに我が国の安全保障に資することを目的」とすると規定している。電気事業法の目的は「公共の安全を確保し、および環境の保全を図ること」とされており、健康に対する権利には環境権も含まれる。
年間1ミリシーベルトという公衆被ばく線量限度が国内法に取り込まれたのは、ICRP1990年勧告を放射線審議会が審議した結果だが、同審議会の設置根拠法である「放射線障害防止の技術的基準に関する法律」は「一般国民の受ける放射線の線量をこれらの者に障害を及ぼすおそれのない線量以下とすること」を基本方針としている。
原判決は、ICRP勧告は「1ミリシーベルトを超える被ばくが個人に健康影響を与えるという理由で線量限度を設けているわけではない」と判示しているが、間違いである。公衆の被ばく線量限度を超える被ばくは「障害を及ぼすおそれのある線量」であり、それが「個人に健康影響を与える」から問題なのではなく、それは国民の健康という観点から法的に許容されない、のである。
A規約には、健康に対する権利について「到達可能な最高水準」とされている。年1ミリシーベルトという公衆被ばく線量限度は「到達可能な最高水準」の健康についての一つの基準を示したものと考えられる。
被告・国は、塩見訴訟最高裁判決を引用して、A規約はその実現について積極的に政策を推進すべき政治的責任を宣明したものであって、個人に対し即時に具体的権利を付与すべきことを定めたものではないと主張している。
しかし、塩見事件での国民年金裁定却下処分は、A規約が国内で効力を生じる前の時点でなされたものだった。また、同最高裁判決で問題となったのは障害福祉年金制度に関するものであり、立法府の裁量が大きいと考えられる。本件の健康に対する権利は、国内法で確立しているものであり、立法裁量が問題になる余地はない。
A規約の規定や内容が法律や憲法の解釈に反映されるべきことを認めた高裁判決もあり、A規約が裁判規範性を有し、A規約に基づく健康に対する権利への侵害が考慮されるべきことは明らかである。
by shien_kyoto
| 2021-01-31 15:32
| 期日
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