2020年 10月 26日
【原発賠償京都訴訟】第7回控訴審(大阪高裁)期日の報告です! |

10月14日は、京都訴訟の控訴審第7回期日でした。
新型コロナ感染症の影響で、傍聴席が特別席1、一般席29に制限されました。抽選になるくらい傍聴に来てほしい。でも、いつもと同じように来られると法廷はもちろん、報告集会(定員の半数に制限)にも入れない人が出てくる中、どういう風に案内したらいいのか悩みながらの「宣伝」でした。
当日、原告の参加もいつもより少ない7名。しかも、入廷行進に間に合ったのは4名のみでしたが、正門前で支援者の方たちが暖かく出迎えてくれました。そして、傍聴券を求めて並んだ方は45名。抽選に漏れて模擬法廷に参加した人は14名でした。

法廷では、3つの準備書面について原告側のプレゼンが行なわれました。今回は、並行して行なう模擬法廷からZOOM配信しました。模擬法廷では、弁護団作成のプレゼン動画を放映しました。以下、3本のプレゼンの要点をまとめました。長いので、報告集会については別途報告します。
◆竹沢・伊東・大倉意見書(白土弁護士)
竹沢・伊東・大倉意見書に基づき、原告らが精神的に被った被害実態を明らかにする。意見書は、原告全員に対して実施した出来事インパクト尺度(IES‐R)テストの結果に分析を加えたもの。このテストは、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の有無をスクリーニングする手法として国際的に確立されている。

具体的には、22の質問項目に「全くなし」(0点)から「非常に該当する」(4点)までの5段階で答えてもらい、その点数の合計が25点以上になる場合、PTSDの可能性があるとされる。過酷な出来事を体験したりして、強い恐怖感や無力感などの精神的ダメージを受けた人が、①社会的支援が不足しているとき、②日常生活のなかで二次的ストレスにさらされているときにPTSDを発症しやすいとされる。
具体的な症状としては、
①過去の記憶が不意によみがえるフラッシュバックなどの「侵入症状」
②トラウマ体験の想起を避けようとする「回避症状」
③精神的な緊張状態がつづく「過覚醒症状」がある。
原告らのテスト結果を見ると、25点以上の「ハイリスク者」が55・9%を占め、平均点数も28・78点と25点を大きく上回る高水準だ。阪神淡路大震災で自宅崩壊などの過酷な体験をした被災者を対象としたテスト(3年8か月後)ではハイリスク者が39・5%、新潟県中越地震で仮設住宅に暮らす被災者のテストではハイリスク者が3か月後に21・0%、13か月後に20・8%だったことと比較しても数値の高さがわかる。
意見書では、ストレスを高める要因を分析し、
①経済的困難、
②身体的異変、
③人間関係上の困難、
④社会的孤立をあげている。
経済的困難については、避難に伴う失職・転職があり、再就職しても収入減・不安定雇用など経済的悪化を伴っているケースがほとんどであり、その不利益は一時的なものではなかった。夫が避難元に残った母子避難の場合も二重生活による生活費の増加、子どもの成長に伴う教育費の増加などで貯えがなくなった原告もいた。
身体的異変については、約半数が原発事故直後に下痢、肌荒れ、鼻血などを経験している。甲状腺検査では「要経過観察」が35・9%、「再検査が必要」が6・3%と成人原告の4割以上に異変が見つかっている。
人間関係上の困難については、避難先で「親切な人びとに助けてもらうことがあった」人が56・8%いる反面、「避難者であるという理由で誹謗中傷を受けた」人が29・6%、「孤独感を強めた」人が43・2%と人間関係上の苦痛に苦しむ姿が浮かび上がる。また、子どもが学校でいじめや嫌がらせを受けた事例も複数みられる。
社会的孤立については、避難によって避難元でのコミュニティから分断されるとともに、親子関係や友人関係が悪化した。その結果、避難したあと「相談や日用品の貸し借り」をする親しい人が「0人」と回答した原告が41・9%に上っている。避難生活が長期化すればするほど、元のコミュニティとは疎遠になるが、帰還してもPTSDリスクの高い原告の割合は高いまま推移しており、帰還してもコミュニティの中で精神的安定を得られていないことがうかがえる。
原告らは、避難以来長期にわたり二次的ストレスにさらされ続け、社会的支援も決定的に不足している。これらの被害実態に対して相応の損害評価をしていただきたい。
◆辻内意見書の位置づけ(井関弁護士)
本件事故は、われわれが一度も経験したことがない事故であり、その被害も未曾有、一度も経験したことがない被害が生じている。その基本的な証拠は原告の陳述書、関連書証、原告尋問調書であり、その精査を求めたい。ただ被害実態の特徴が見えにくい面もあるので、避難者一般の被害実態については辻内意見書、滞在者一般の被害実態については成(ソン)意見書、原告の被害実態については陳述書分析とストレスアンケート分析、それぞれ竹沢・伊東他の意見書を提出した。被害実態をいろんな切り口で「見える化」したものだ。

ここでは、辻内意見書が明らかにした原発避難者の被害実態の要点を述べる。
辻内教授は、原発避難者を対象に2012年から毎年IES‐Rテストを織り込んだアンケートを実施し、ストレス度を測定してきた。当初、平均値が36点、25点以上が67%と、驚くべきストレス度の高さだった。その後、少しずつ低下したものの、6~7年経過しても、平均値が25点前後、25点以上が半数近くを上下する状態が続いている。
辻内教授は、2016年以降、うつ病や不安障害のリスクを測定できるK6テストを織り込んだアンケートを実施し、ストレス度を測定してきた。13点以上だと重症の精神疾患である可能性が高いとされており、一般住民の場合は13点以上の割合は3%とされる。原発避難者は5年を経過してもその割合が20%を超えている。
中間指針では、区域内避難者は「避難に伴う不便」、区域外避難者は「被ばくの不安」を損害の核心と考えて慰謝料が算定されたが、これは被害実態の一部しか考慮していない。
京都訴訟の原告のほとんどは区域外避難者だ。原判決は、中間指針によりかかって区域外避難者の慰謝料額を区域内避難者の慰謝料額と比べて著しく低額に算定した。しかし、辻内教授のアンケート調査により、区域外避難者のストレス度は区域内避難者のそれと遜色なく、福島県や宮城・岩手の津波避難者より有意に高いとの結果が出た。
したがって、区域外避難者の慰謝料額は、区域内避難者と格差をつけてはならず、中間指針はもちろん、原判決の抜本的見直しが必要である。
◆低線量被ばくについて(高木弁護士)

本行意見書は、
①放射線感受性には個人差がある、
②若年層において放射線感受性が高く、影響が現れやすい、
③複合影響でリスクは高まる、
④甲状腺多発は原発事故の影響が否定できない、
としている。
放射線感受性の差異は、遺伝子の異常、遺伝的な個人差、生物学的半減期の個人差によって生じる。ICRPが採用している「しきい値」概念にも問題がある。
正常な細胞は、放射線を浴びるとDNAを損傷するが、DNA2本鎖切断の修復に関与する遺伝子に異常がある場合、放射線感受性が高くなり、女性は乳がんや卵巣がんに、男性は前立腺がんになりやすいことが知られている。遺伝的なわずかな違いによっても放射線感受性には差異が生じる。甲状腺へのヨウ素取り込みには、遺伝子の比較的小さな差異によって個体差があることが明らかになっている。
また、油性ヨウ素を含んだ造影剤を用いて子宮卵管を造営したケースで、双胎のうち一児にのみ胎児甲状腺腫を認めた事例が報告されている。生物学的半減期と組織重量は個人差が大きいことも知られている。生物学的半減期は、実際に個別に見ると非常に大きなばらつき(最大で100倍くらい違う)がみられる。セシウムの生物学的半減期が10倍違えば、実効線量は10倍違うことになるので、最も感受性の高い人に合わせる必要があるが、通常は平均値でしか語られない。
「しきい値」にも問題がある。一般的な用語で「しきい値」とは、「ある作用因が生体に反応を引き起こすか引き起こさないかの限界」と定義されるが、ICRPがいう「しきい値」は、その値未満では生体に影響が出ないのではなく、放射線感受性の高い1%未満の人にはすでに影響が出ていることを意味している。自身がその1%に属していることを懸念して、被ばくを避ける行動を取ることには合理性がある。
年齢が若いほど放射線感受性が高い理由としては、
①若いほど細胞分裂が盛んだから、
②胎児や子どもは増殖能の高い骨髄(いわゆる赤色骨髄)の占める割合が高い、
③皮膚が成人に比べて薄いため各組織がより多くの影響を受ける、
④被ばく後の生存期間が成人より長く、潜伏期間の長いがんが出現する可能性が大きくなる、
などがあげられる。
放射線被ばくによる健康影響を考える際には、複合影響のリスクも考える必要がある。これは、一度少量の放射線を浴び、それだけでは腫瘍が生じることはなかった場合でも、のちに様々な有害物質(たばこ、アルコール、薬物)や医療被ばく(CT検査等による被ばく)にさらされることで発がんリスクが高まることを言う。
福島の甲状腺がんについて、「チェルノブイリと福島では被ばく量が違いすぎる」との主張があるが、チェルノブイリの被ばく線量が過大評価される一方、福島の被ばく線量が過少評価されている。スクリーニングで潜在がんを早く見つけただけだという見解があるが、少なくとも2巡目以降に発見されているがんの多くは原発事故により被ばくの影響を受けているといえる。
また、過剰診断ではないか(予後の良好な小さながんまで見つけている)との見解もあるが、手術対象とされた甲状腺がんの多くが侵襲性が高く手術を要するがんだったことが実際に治療にあたった鈴木眞一医師によって明らかにされている。
また、一般に若い世代における自然発生の甲状腺がんは、年齢が高いほど発症率が高まる傾向があるとされる。福島の小児甲状腺がんの年齢別発生頻度を見ると、1巡目では「年齢が高いほど症例数が多くなる」傾向が見られるが、2巡目以降はそうした傾向は全く見られない。このことは、原発事故による放射線被ばくの影響による症例であることを示唆している。放射線に対する個人差は極めて大きいことや複合影響のリスクがあることを考えれば、危険な場所から遠ざかろうとする(避難する)ことは当然の行為に他ならない。
by shien_kyoto
| 2020-10-26 23:03
| 控訴審期日
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