2020年 02月 29日
京都訴訟控訴審第6回弁論期日の報告 |

2月26日(水)の京都訴訟控訴審第6回弁論期日の報告です。長文、ご容赦ください。
新型コロナウイルスの感染拡大の中で開かれた控訴審第6回弁論期日。事前に、体調の悪い方は無理に参加しないでと訴えたせいもあったのか、残念ながら傍聴席が満席とはなりませんでした。
参加した原告も全員マスクを着用。「異様だけど、あとで振り返ると、あの時はこんなだったねという思い出になるかもね」などと話ながら入廷行進。お互いの感染防御のために、傍聴者にもマスク着用をお願いし、マスクがない方にはこちらで用意したマスクをお渡ししました。
法廷では、原告側が4本の準備書面を提出。それぞれのプレゼンも行なわれました。以下、その要旨です。
①山下和彦検面調書等に基づく補充主張(森田基彦弁護士)
・東電刑事裁判で明らかになった山下和彦氏(東電幹部)の供述調書とその添付資料で明らかになった点を述べる。
・ポイントは、東電も長期評価の知見を確定論的に採用し評価していたこと、東電が長期評価の見解を2008年に採用せずに先送りしたのはなぜかということ、東電も防潮堤以外の溢水対策(水密化)を具体的に検討していたことの3つ。
・2006年9月に原子力安全・保安院は電気事業者に対し耐震安全性評価の実施を求める文書を発出した。2008年2月、社内会議で耐震バックチェックの中間報告等に関する説明会を開いたが、その時の配布資料には「基準地震動Ss1策定に関する検討では推本の見解(長期評価のこと)を無視できないとの判断から確定論として取り扱うこととしたため、津波の検討についても海溝沿いの震源モデルを考慮する必要が生じている」とされており、東電は長期評価を津波についても確定論として扱う方針だったことがわかる。
・その後の「御前会議」において、山下氏は長期評価の知見を基準地震動の設定に確定論的に取り込んだ結果、Ssレベルが450ガルから最大600ガルに増大すること、津波高さがO.P+7.7m以上になる可能性があり、非常用海水ポンプの機能維持や建屋の防水性向上のための方策を説明し、了承された。
・ところが東電設計に委託していた津波水位が敷地南部で+15.7mであることがわかると、経営陣の態度が一変する。防潮堤を設置するとしても、+15.7mの水位を公開したり、最終バックチェック報告時に工事完了までの明確な工程表を示せなかった場合、原発の稼働停止を求められる可能性がある。柏崎刈羽原発の全原子炉停止で経営収支が悪化していた東電としては、福島第一原発の停止を避ける必要があった。そこで、長期評価に基づく対策を保留し、津波水位を低くするために土木学会に新たな波源モデルの設定を依頼して時間稼ぎをするという方針に転換した。
・社として方針転換したあとも、現場職員の会議で配布された資料に「推本の知見を完全に否定することが難しいことを考慮すると、現状より大きな津波高を評価せざるを得ないと想定され、津波対策は不可避」と記載されていた。また、2010年8月には社内の複数の技術グループによる「福島地点津波対策ワーキング」という津波対策検討会が開始され、電動機の水密化等の対応策が検討された。このように、現場職員は長期評価に基づく津波対策を講じざるを得ない状況であることを強く認識していた。
・東電上層部が長期評価を排除した根拠は、理学的、工学的な知見に基づくものではなく、経営上の都合だった。
②国による伊方最高裁判決の引用の法的理解の誤り(清洲真理弁護士)
・まず相対的安全性に関して。国は「原子炉施設に求められる安全性の程度は『伊方最高裁判決』でも判示されているとおり、『絶対的安全性』ではなく『相対的安全性』である」と主張した。しかし、同判決では「絶対的安全性」「相対的安全性」の用語は使っていないし、原子炉施設に求められる安全性の程度が「絶対的安全性」か「相対的安全性」かについて判断したものではない。
・そもそも一審原告側は、絶対的安全性を主張しているわけではなく、法が規制権限を与えている趣旨を踏まえて、規制権限不行使が違法だと主張している。
・次に「専門技術的裁量」について。国は、「伊方最高裁判決が判示するとおり、規制行政庁の専門技術的裁量の下」と主張したが、同判決についての調査官解説は、同判決があえて「専門技術的裁量」という用語を使わなかったと指摘している。それは、その用語を使えば、一般的に言われる裁量、すなわち政治的、政策的裁量と同様の広範な裁量を認めたものと誤解されるからだと説明している。つまり、伊方最高裁判決は、原子炉の安全性の判断に関して、人的、財政的制約という政策的裁量を予定していないのであり、本件において規制行政庁に政治的、政策的裁量と同様の広範な裁量が許容される余地はない。
・しかも、国には専門技術的判断の実態がない。京都地裁判決は、「経済産業大臣または保安院が、積極的に何らかの検討をした形跡はうかがえず、裁量の働くような専門技術的判断をしたとは認めがたい」と認定した。国の対応は、伊方最高裁判決が要求する水準に達しているとは到底言えない。
・同判決は、原子炉の安全性に関して、実際には「各専門分野の学識経験者等を擁する原子力委員会の科学的、専門技術的知見に基づく意見を尊重して行なう内閣総理大臣の合理的な判断にゆだねる趣旨と解する」と判示している。長期評価は、地震調査研究推進本部という専門的集団が調査審議を行ない、公表したものであり、規制行政庁はまず長期評価を尊重しなければならなかった。
③「避難の相当性」と健康に対する権利(鈴木順子弁護士)
・京都地裁判決は、「年間1mSvという基準だけをもって、避難の相当性を判断することは相当ではない」とした。結局、健康影響の有無を相当因果関係の基準として重視し、生命身体に対する具体的な危険がなければ、避難の相当性を基本的に認めないという考え方に立っていたと評価される。
・許容されない線量の被ばくをしない利益は、現在の国内法で守られている。とはいえ、国際人権法では、明確かつ直接的に健康に対する権利の内実が規定されており、締結国における権利実現の方法も規定されている。そこで、国際人権法における健康に対する権利に基づき、その権利の意味とどう尊重されるべきかを明らかにする。
・健康に対する権利には、「健康的な環境条件へのアクセス」が含まれる。これを本件に当てはめると、健康に対する権利として、公衆被ばく線量限度(1mSv)以下の環境において生活できることの保障が含まれる。
・また、社会権規約は、健康に対する権利として、環境衛生および産業衛生のあらゆる状態の改善を例示している。この「状態の改善」とは、人びとが放射能またはその他人間の健康に直接もしくは間接的に影響を与える有害な環境条件にさらされることの防止および削減からなると解釈されている。これを本件にあてはめると、公衆被ばく線量限度に対する市民の権利を守ることは、健康に対する権利の保障という観点からは必要不可欠である。
・国際人権法上の権利侵害がある場合、司法による是正が求められている。
④陳述書分析に基づく被害実態について(白土哲也弁護士)
・この意見書は、新潟訴訟での意見書を手本に、一審で提出した陳述書と追加的アンケート結果を分析したもの。原告向けアンケートは回収率100%で、それは集計データの正確さを担保するものであると同時に、被害実態を裁判所に訴える真摯な熱意を表すもの。
・56世帯のうち、54世帯が区域外避難で、乳幼児から高校生までの子どもを持つ「子育て世代」が約84%にのぼる。原告らの多くの避難の動機が「子どもたちを守りたい」という切実な思いに駆られたことが浮き彫りとなる。
・避難に伴い、「夫婦分離」「兄弟分離」など約6割が家族の分離を体験している。この世帯分離の状況は陳述書が作成された5割以上が解消されていなかった。一審判決は避難から2年を経れば生活が安定するとして、損害の発生を2年で切っているが、それが実態と合わないことは明らか。また避難が続く中で約13%の世帯で離婚という家族関係の決定的分断が生じていることも特筆すべき点だ。
・子どもたちに生じた変化としては、5割以上が体調や様子に変化が生じ、39%が周囲になじめないなど人間関係に問題を抱え、不登校に至ったケースが22%あった。本件事故は、子どもたちに対して身体的・精神的に多大な影響を与えている。
・避難による大人への影響としては、避難そのものによる苦痛の他に、ストレスによる不調や家族との分断、転退職や収入の減少など生活全般にわたって苦痛を訴えている。
・人間関係の変化としては、避難元での旧知の友人との間で事実上の断絶が生じたケースが27%に及ぶほか、避難先では半数が孤独感を感じ、2割が避難者ということで誹謗中傷を体験している。
・原告らはさまざまな葛藤や不安を抱えながらも、「将来の健康に不安を感じ」(91%)、、「放射線量が低い」(約93%)という理由で関西に避難した。
・避難後の困難としては、経済的困難に加えて、「先行きが見えない不安」が9割を占めている。避難生活に伴う苦痛や困難・不安は時間の経過と共に下るどころか増大している。今なお継続する原告らの日㋐ぎの実情を直視してほしい。
第7回期日は5月13日(水)14時30分。第8回期日は10月14日(水)、第9回期日は2021年1月14日(木)と決まりました。
長くなったので、報告集会については別途報告します。
●参加者の感想
・アンケートに関するお話の中に、たくさんのことが含まれていると思いました。
・若い弁護士さん4人の弁論が心強かったです。
・理詰めの訴え、苦悩の末できあがったアンケートの心に染みる訴え。裁判長がちゃんと聞いていたら、必ず通じると思います。
・福島原発事故、東日本大震災、津波前の東電内部の技術陣による、「津波に対する長期評価」が生きていたにもかかわらず、目先の経済利益を優先し、原発の停止を恐れた東電経営陣の不作為を暴露された内容が特に良かった。
・原告弁護士のプレゼンは、資料もあり、わかり易かった。
・「陳述書分析に基づく被害実態の主張」の準備書面はよかったし、今後も必要であると思う。しかし、何といっても時間がないので、充分に伝わりにくい部分もあった。たくさん言おうとすると無理があるので、整理した方がよい。例えば、「人間関係の変化」の円グラフの要素がわからない。どう見たらよいかわからない。強調すべき所を丁寧に言った方がよいかも。
by shien_kyoto
| 2020-02-29 15:07
| 期日
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